えびっちょのお話

作家 北見すみれの作品集です

砥部川のゴンベイとサチ

ある砥部の川に、ゴンベイという名前の青さぎが住んでいました。

青さぎのゴンベイは、朝、日の出とともに起き、

日の入りとともに寝る生活をしていました。


朝、日の出とともに起きるゴンベイは、川が流れる中通りから岩谷口、衝上断層、岩谷、千里口と川沿いを山のほうへ向かって飛び、中通から千里口までがゴンベイの縄張りでした。


日本が戦争をしている時は、夜でしたが、松山の方でまっかとオレンヂの炎が空一面もえているのをなんともいえない気持ちで眺めていたものでした。

戦争が終わって、砥部川の橋の上から川にピョーン ピョーンと飛びこみ、

遊びながら笑う子供達の姿をみては、ゴンベイも川の茂みの中からのぞき、静かに微笑んできました。


時の流れとともに変わる川の様子を眺めていたゴンベイも年が90歳となりました。

砥部川がきれいに公園化され、砥部焼の椅子が土手に並び、ゴンベイも体の衰えを感じるようになりました。

 

そんな時、松山の方から、ふらり、ふらりと白さぎが飛んできました。

今までのゴンベイでしたら、よそ者が入ってきたら威嚇しておい払っていましたが

年の衰えを感じ心細くなっていたゴンベイはその白さぎに、どうして砥部川にきたのか聞きました。


するとその白さぎは、サチという名前で、松山の川で生まれ育ったけれど動作がのろく えさを取るのがへたで白さぎの仲間から「くず」「のろま」と言われ、つっつきまわされ、砥部川のゴンベイがいるところまでにげて飛んできたのだということを話してくれました。


それを聞いたゴンベイは、白さぎのサチをなんとかしてあげたい気持ちにかられました。

えさを取る元気もなく弱っているサチにゴンベイは、えさの魚、カエル、バッタなどを取ってきて食べさせました。

 

日に日にサチは元気になっていきました。

でも、青さぎのゴンベイばかりに頼って、自分でえさを取ろうとしません。


こそでゴンベイはサチを一週間くらいほうっておくことにしました。

今までやさしかったゴンベイが、急につめたくなって、えさをくれなくなったことに白さぎのサチは どうしてだろうと不安に思いました。

 

いぢめられてきた白さぎのサチは、ゴンベイに

「どうして、えさをくれないのか」と聞くことも恐ろしいことでした。

でも、思いきってゴンベイに「どうしてえさをとってきてくれないのか」と聞きました。

するとゴンベイは嬉しそうに、サチに言いました。


「えさは、もう自分で取って頑張って生きていかなくてはいけないよ」

とサチはその時初めてゴンベイの優しい気持ちがわかりました。

えさを取ってきてくれるのは、あたり前のことではないと悟りました。


砥部川にきてゴンベイに甘えていた自分を知り、サチは、お腹がへっていたこともあって必死でえさを取り始めました。


ゴンベイがふらふらしながらでも朝起きて、中通、岩谷口、衝上断層、岩谷、千里口と

毎日とびかっているのも知り、サチも頑張って餌を取り食べながらゴンベイと同じ場所を飛びかいました。


生きるのに必死なサチは日をおうごとに機敏に動き、えさもすばやく取ることが

出来るようになりました。

毎日同じことの繰り返しだけれど、サチは生きるために頑張りました。

 

ふとサチは、ゴンベイがあまり動かずえさも取っていないことに気が付きました。

今度はサチがゴンベイのためにえさを取って食べさせました。

二、三日は食べてくれたけれど、ゴンベイの方からサチに「もういいよ」と

かすれる声で言ってきました。

サチはくちばしで必死にゴンベイの口にえさを入れようとしましたが、

ゴンベイは「ありがとう」と言い一口お水を飲んでおいしそうな満足そうな顔をして

息をひきとりました。


サチは突然のことにどうしていいのかわからず自分のくちばしで自分の足を何度もつっつきました。

普通なら痛いのでしょうが痛みも何も感じませんでした。

いっぱいつっついて血が流れるのをみて、サチは、生きている。元気だ。

それもゴンベイのおかげだとあらためて心から思いました。


サチは、その日から砥部川に住んでいたゴンベイと同じように日の出とともに起き

川を登り、えさを取り食べ、日の入りとともに川を下り体を休める習慣ができるようになりました。

 

今でも砥部川に、二代目、三代目の青さぎゴンベイは白さぎのサチがいることでしょう。