えびっちょのお話

作家 北見すみれの作品集です

ふる里

ふる里の

私の秋は 知らない内に やってくる

気がつけば 9月

野山は 赤 黄 茶色の紅葉に染まる

かえでやもみじの

小さな赤い葉に

幼き日の 赤子の笑いを 写し出す

 

ふる里の

私の冬は 知らない内に やってくる

気がつけば 11月

空気がすんで ピーンとはり

うすい雲のかべを通りぬけるように

せいじゃくの中で

雪がヒラヒラ 降ってくる

地面は すべての物をきょぜつし

あつい こおりのまくをはる

 

ふる里の

私の春は まちどおしい

2月 3月 4月と

太陽の光が 雪をとかすたび

「春はまだかな」と 思いをはせる

真白な雪の平面に

光のおりなす模様をみて

光が春を呼んでくる様に思う

春は日だまりの中 雪がとけ

草花が芽を出すと

小鳥のさえずりが聞こえ

希望という命のいぶきを感じとる

 

ふる里の

私の夏は すずしげだ

いろいろな花が いっせいに咲き

もえぎ色の草原が

深緑に変わってゆく

牛たちは のんびりと 広い山の

草をたべ ねそべる

虫たちは 短い夏を おしむように

夜のオーケストラを ひらく

月の光をあびた池では

かえるが ヒョロロ ヒョロロと

合唱をかなでる

 

ふる里の

私の四季は

こうやって私の心に残っている

そうして

ふる里は

今なお 沢山の 命を

宿している